現代社会は、ストレス社会とも言われています。仕事の締め切りに追われたり、社内のトラブルに巻き込まれたり、あるいは夫婦間の問題など、私たちはいろんな場面でストレスに遭遇しています。では、ストレスとはどのようなものでしょうか。フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」によれば、次のように定義されています。
・・・ストレスとは、生物学的には何らかの刺激によって生体に生じた歪みの状態を意味している。 元々は材料力学上の言葉で例えばスプリングを引き伸ばしたり、ゴム球を押し縮めたりした時にその物質の内部に生じた応力の事を言う。・・・
このようにストレスは元々は物理学に使われていた言葉でしたが、カナダの生理学者であるハンス・セリエ博士が1936年にイギリスの雑誌「ネイチャー」誌に「ストレス学説」(非特異的生体反応を系統的な一連の反応として捕らえたストレス学説−ストレス理論−)を発表したことから、ストレスという言葉が使われ始めました。平易に言えばストレスとは、例えば、ボールに圧力がかかって、歪んだような状態のことです。 このストレス状態を引き起こす要因をストレッサーといいます。以下、ストレスについて考えてみましょう。
◇ストレスは人によって千差万別
大勢の人前で話すのに快い興奮を覚える人がいます。しかし、他の人にとって、それは緊張を著しく高め、不安に陥る恐ろしいことかもしれません。このように、ストレスのきっかけは人によっていろいろです。例えばつぎのようなことが挙げられます。
・日常生活で些細なことでひどくイライラしてしまう
・生活を変えてしまうような大きな出来事
・明けても暮れてもずっと続いている気にかかる事柄
◇ストレスのドミノ効果
私たちは空気が無くては生きられないように、他人との関係(あるいは社会との関係)なくしては生きていけません。互いの人間関係が親密であればあるほど、一人がイライラしているとドミノ倒しのように、周りの人たちもイライラしてしまいます。実際、自分の周囲にいる人達や好意を感じている人がイライラしていると、全く無意識のうちに自分自身もそれに巻き込まれてイライラしてしまうものです。
◇ストレスに対する反応
上記のように、ストレスは人間でもなければ、場所でも物でもありません。周りの変化に対する身体的、精神的な反応です。ストレスは、良いこと、悪いことに拘わらず起きます。体の筋肉を緊張させ、心臓の鼓動はドキドキと激しくなり、呼吸も速くなります。そのため、血管の中の糖分と脂肪分が多くなってエネルギーの供給を増やします。すると、不安や心配の感情に、期待とやる気が加わってきます。
この状態になると、なんだかモジモジしたり、近辺を歩き回ったり、誰彼かまわずに喰ってかかったり、あるいは無性に食欲が出たりしてきます。
◇ストレスの二面性
ストレスは全てが悪いわけではありません。上記の「ストレス」という言葉の元々の始まりからもおわかりのように、ストレスとは刺激に対する反応ということもできます。その反応には、悪い反応もあれば、よい反応もあります。すなわち、ストレスには「悪いストレス」と「良いストレス」の二面性があります。
・良いストレス (eustress)
良いストレスとは、例えば、目標、夢、スポーツ、良い人間関係など、自分を奮い立たせてくれたり、勇気づけてくれたり、元気にしてくれたりする刺激とその状態です。 こうした「良いストレス」が少ないと、人生は豊かにはなりません。
・悪いストレス (distress)
悪いストレスとは、例えば、過労、悪い人間関係、不安など、自分のからだやこころが苦しくなったり、嫌な気分になったり、やる気をなくしたりするような刺激とその状態のことをいいます。いつまでもこのようなストレスに取り付かれていると、身体、情緒、理性のいずれもが力を失い、やがて病気になってしまいます。
◇ストレスコントロールの価値
ストレスは、残念ながらなくすことはできません。私たちが生きている限りストレスは続きます。 なぜなら、ストレスとは、本来、生物が外的あるいは内的な刺激に適応していく過程そのものを概念化したものだからです。つまり、気候が変わればそれに適応し、飲み水が変わればそれに適応し、心理的なショックを受ければそれに適応していく、そうした環境に適応していく時の反応とプロセスがストレスだからです。
睡眠中にもストレスはあります。たとえば、睡眠中に寝返りをうつのは、体の特定部分にストレスがかかりすぎているためです。ストレスを分散するために、体は自然に寝返りを打とうとします。また、急に温度が冷えたりすれば、それもストレスとなります。たいていは、睡眠中であっても、体が自然に布団をかぶって、寒さから体を守ろうとします。
この他、「嫌な夢を見て、突然目が覚めた」という経験を持っている方もいるでしょう。そんな時には、心臓が激しく鼓動を打っているのを感じる場合もあるかもしれません。これは、夢がストレスとなっている状態です。 つまり、睡眠中でも私たちはストレスを感じ続けているのです(むしろ、ストレスを感じられなくなってしまった方が、調節ができないのでリスクが高まります)。
私たちの意志とは関係なく、自然環境は常に変化していますし、私たちの心や体も自分ではどうにもならないくらい急激に変化することがあります。こうした外的・内的環境の変化に適応していくということが、とりもなおさず「生きる」ということですから、ストレスという言葉は「生きる」という言葉の同義語とも考えられます。
私たちが生きている限り、ストレスを完全に取り除くことができないのはお分かりいただけたと思います。しかし、毎日平穏に生活できるように、「ストレスをコントロールする」ことはできます。ですから、適切な方法を用いて緊張を解きほぐしましょう。そうすれば、まず病気に対する抵抗力が強くなり、心臓病その他の慢性疾病の予防になり、健康全体の向上に繋がります。そして、人間関係の維持改善や、仕事や私生活の所謂「燃え尽き症候群」の予防にも役立ちます。
何かと話題上るストレスですが、上手にコントロールすることによって人生を情熱あるものにしてくれます。自分らしい生き方を模索し、自己の可能性を追求して元気に生きるためにストレスコントロールを心がけましょう。