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江戸商人たちの円滑な人間関係を築く知恵
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江戸商人たちの円滑な人間関係を築く知恵 〜共生のための哲学「江戸しぐさ」〜
江戸商人たちの円滑な人間関係を築く知恵 〜共生のための哲学「江戸しぐさ」〜
「傘かしげ」「肩引き」「こぶし腰浮かせ」などで知られる江戸しぐさ。現代の人々に欠けているマナーとして最近注目を浴びてきています。この伝承者として、2007年10月にNPO法人を立ち上げて全国行脚を続けている「NPO法人江戸しぐさ」越川禮子理事長のインタビュー記事(財団法人全国法人会連合発行「季刊ほうじん」第59巻2008年新年号)からご紹介します。
越川さんは「江戸しぐさは、江戸商人たちの円滑な人間関係を築く知恵、いわば共生のための生活哲学でした。その根っこは他人を思いやる心です。社会の閉塞感が広がっている今の時代こそ。もう一度見直す価値があるのでは」と訴えています。このような知恵こそ、これから独立・起業を目指す方々が心がけるべき経営哲学の根幹をなすものではないでしょうか。(以下は越川禮子理事長インタビュー記事全文です。注1.及び2.は筆者が挿入)
二、三年前、駅や街中で「江戸しぐさ」のポスターが貼られるようになってから、皆さんに知られるようになって、今、私は講演のため忙しく東奔西走する毎日です。去る十月(2007年10月)には、NPO法人を立ち上げました。おかげさまで順調に正会員や賛助会員の数も増えています。
江戸しぐさは、簡単に言えば、江戸っ子の癖なんです。マナーとは違います。マナーは、人がいなければやらないという面がありますが、癖は、人がいようといまいと、自分がそうしないと気持ちが悪い、だから率先して行うというものです。
もともと江戸しぐさは、繁盛しぐさとも言って、江戸商人のリーダーたちの間で口伝えされてきたもので、商売のコツを含み、それゆえ門外不出とされてきたものです。それを戦後、江戸講の流れをくむ芝三光先生らが地道に掘り起こされて、聞き書きによって今に伝えられるところとなりました。
そういうわけで、江戸しぐさは、江戸商人たちが、よき商人としていかに生きるべきか、また共倒れしないために、どうやって円滑な人間関係を築き保持するかといった、共生のための知恵や生活哲学とも言えます。
士農工商の身分制度の中で、商人は一番下に位置づけられていました。でも実態は、商人のリーダー格である豪商ともなると、武士にも負けないぐらい、四書五経(注1.儒教の経書の中で特に重要とされる四書と五経の総称で、四書は「論語」「大学」「中庸」「孟子」、五経は「易経」「書経」「詩経」「礼記」「春秋」)、藤樹学(注2.江戸時代初期の陽明学者中江藤樹の教えで、知行合一説にもとづいて良智、明徳を探究し、人格を磨けと説いた。「男40才になれば蔵を建てるべし」が有名)など古典をしっかり勉強した教養人でした。彼らは勉強した事柄を、咀嚼し、平易な言葉で伝えていったわけです。
そんな立派なリーダーたちを見ていた八つぁん、熊さんたち庶民は、彼らの立ち居振る舞いに憧れ、真似をしていくうちに自らの生活信条となり、江戸は町人文化が盛んな生き生きとした社会になっていったわけです。
今のところ、江戸しぐさと言えば、「傘かしげ」や「肩引き」などの所作を中心に興味を持たれていますが、これは稚児しぐさ、お初しぐさなんです。本当は、共生の哲学まで踏み込んで勉強してもらいたいのです。でも、入口としては、そういった所作を体験するのもいいことでしょう。というのは、いわば当たり前のことができていない人が、今の世の中、多いからです。
最近の人々の行いを見ていると、あまりにも自己中心的で、常識や善悪の区別を持っているのかしらと疑うことが多すぎます。特に私が指摘したいのは、親が子供たちをしっかりしつけているのか、と。子供自身は純粋で、人間本来の善悪の区別は持っています。実際、小学校で江戸しぐさを教えると、子供たちはすぐに吸収し、素直に実践してくれます。ただ、そんな子供も、親の自己中心的な行動を見て成長すると、いつの間にか自己中心的になってしまうのです。ことほどさように、親のしつけは大事なものです。
昨年も、食品偽装問題やら政治のドタバタ劇で、上に立つ人々の情けない姿を数多く見ました。しかし、「上に立つ人々」の中には皆さん自身も含まれているのです。親であれば子供に、企業経営者であれば社員の人たちに、皆さんの行動は見られています。だから、皆さんお一人お一人が、江戸の商人のリーダーたちの考え方とふるまいを参考に行動して、彼らのお手本となってもらいたいのです。
江戸しぐさの基本的な考え方は、江戸の共生とは互角で向き合い、互角で言い合い、互角で付き合うことです。ごくごく人間として当たり前のことなんです。こうやって江戸の町人たちは、封建時代にもかかわらず、生き生きと暮らしてきました。
このような江戸っ子たちの生活態度は、格差社会だなんだと閉塞感が広がっている二十一世紀の今こそ、もう一度見直してみる価値があると私は思います。
筆者は、江戸しぐさは江戸っ子の癖で、マナーとは違うという越川理事長の言葉に思わず頷いてしまいました。マナーは、人がいなければやらないという面があるが、癖は、人がいようといまいと、見ていようが見ていまいが自分がそうしないと気持ちが悪いから率先して行うもの。ネットショップに代表されるインターネットビジネスは、買い手と売り手が直接顔を会わすことはほとんどありません。だから、対面販売以上に売り手は相手(買い手)に対する心づかいが必要だと思います。約束したことはきちんと守る、虚偽のない正しい情報を提供するなどが癖になれば、きっと繁盛するネットショップにつながるでしょう。
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