今回ご登場いただいたのは、「第17回全国花のまちづくりコンクール」で最高賞に輝いた東京都江戸川区在住のマリエ様です。マリエ様は、子煩悩な両親の二女(3人姉妹)として誕生し、下町ならでは雰囲気に包まれ、聡明な女性として成長され、大学で英米文学を専攻されました。卒業後は花嫁授業に入るのが当然視されていた風潮に捉われず、貿易商社に就職されましたが、生来の演劇への夢を捨てきれず、シェークスピア劇団に入団して多感な20代を過ごされました。
30代に入ると、語学を活かして外資系企業で市場調査に従事され、米国流のデータベースに基づく予測の威力を直接体験されました。30代後半に、女性が能力を発揮して長年働ける職場は外資系企業だと考えるようになり、積極的な求職活動を展開され、50代前半までドイツ系企業で通訳として活躍されました。
その後、派遣会社に登録し、翻訳やパソコンの仕事に従事、加齢とともに次第に仕事のペースをセーブしながら、ハローワークを通じて教員免許が活かせる仕事に従事したり、江戸川区や江東区でボランティア活動に従事されています。
マリエ様は多彩な趣味をお持ちですが、現在は心和む絵手紙を楽しまれています。お酒は全く召し上がりませんが、友人との集いは大好きで、グラスはなくても弾む会話を楽しむのが何よりとのことです。
マリエ様とは、筆者(CGBS代表の高橋)のホームページ作成の仕事を通じて初めてお会いし、それ以後も折りに触れてお話しを伺う機会がありました。当時から年齢や性別を感じさせない積極的な取り組み姿勢に感心していましたので、2008年の年頭のインタビューを迎えるに際し、マリエ様にお願いしました。
静かなホテルのロビーで雑談を交えてのインタビューでしたが、和気藹々とした雰囲気で約2時間のインタビューを無事終了しました。
その際、マリエ様は絵手紙のサークルで描かれた数点の絵手紙をお持ちになり、それらを示しながら絵手紙の楽しさをお話し下さいました。そして、私たちにご自分で描かれた絵手紙をプレゼントして下さいました。
インタビューは、まずは「誕生から現在までの道程」から始まりました。以下はマリエ様のお話を要約筆記したものです。(文責:CGBS高橋)
◇誕生から現在までの道程
1941年に江戸川区で生まれてから今日までずっと江戸川区に住んでいます。小学校からの通学および通勤で他の区に通いましたので、朝早く家を出て、夜遅く帰る生活でした。
ですから、自宅周辺を散歩することもなく、近所の人とのお付き合いは親任せでした。長い間江戸川区に住んでいながら、江戸川区をゆっくり歩いたのは退職をしてからでした。江戸川区民としての意識を持つようになったのも退職後のようです。
57歳頃、平日の昼間にスーパーマーケットに行くことがあって、周辺の商店街を見て回った時は、とても新鮮な印象を受けました。不思議に思われるかもしれませんが、我が家は駅から歩いて10分位でしたので、私はこれまで自転車というものに乗ったことがありません。
◇シェークスピアに憧れた20代
大学では英米文学を専攻しました。当時4大卒の女性に求人は皆無に近いという事情もあって、希望しても仕事に就くことは難しい時代でした。 多くが卒業後は花嫁修行に入るという形をとらざるをえませんでした。私は何とか小さな商社に職を見つけることができました。
数年後、それまで秘めてきた演劇への憧れが強まりました。プロの劇団に入ってシェークスピアの劇を演じてみたい気持ちもありましたので、思い切って劇団に入りました。そして劇団の仲間たちと演劇談議にくれる楽しい日々を過ごしました。
◇外資系企業で活躍した30代〜50代
30歳からは、演劇から足を洗ってずっと仕事を続けました。 初めは米国系企業で3年間市場調査に従事しました。 この中で10年後の市場予測も出しましたが、既に他の企業に転職していた10年後に、この予測が正確であったことが確認できた時には、責任を果たせたという安堵とともに漸く肩の荷を下ろせたという開放感を味わいました。十分なデータを集める程、調査結果は正確度を高めると実感できた3年間でした。
この頃から長年仕事を続けることを念頭におくようになり、長年勤務し易い職場を検討した結果、外資系企業が視野に入りました。私と同じような選択肢を取る女性が多く、競争率は何処も100倍。合格に辿りつくまでに、いかに書類選考を通過するかという試行錯誤が繰り返されました。履歴書やカバーレターの書き方のテキストは現在こそ溢れていますが、当時は自分で失敗を乗り越えながら習得したものです。
語学のできる人間がそう多くはなかった時代のお陰で、通訳を中心とした業務に就くことができました。 上司に随行して、個人ではけっして会えないVIPとの会談や参加する資格のない会議やいろいろな機会に参加できたことはこの上ない幸運でした。一流企業には優れた人材が多く集まり、質のよい人々と共に仕事をできたことも大変心地よいものでした。本当に贅沢な年月を過ごせたものだと今しみじみ思います。
◇マイペースで過ごす50代〜現在まで
50歳を過ぎる頃から次第に通訳の仕事がきつくなり、翻訳、クレーム処理、情報処理などの業務に移りました。定年退職後、派遣会社に登録した処、専門分野の知識と経験が予想外に重宝がられて長期の契約を含む需要がいくつもありました。
次第に視力がパソコン作業に耐えられなくなっており、派遣先の所属部門がライバル企業に売却されたのを機にリタイヤ生活に入ることにしました。 しかし、今だに仕事に未練があったので、週2日程度の責任の軽い仕事に就こうとハローワークで探しました。NGOなどいくつか興味を惹くポストが目に入り、世相や社会の一面が見えてきて仕事探しも又なかなか興味深いものでした。選択はカルチャーセンターのクラス探しに似て楽しくもありました。
現在はボランティア活動と趣味で、現役時代より多忙な日々を送っています。
◇周囲の人々とのコミュニケーション
地元の人々との触れ合いが新鮮です。 独身で仕事に熱中してきた女性ばかりとの交際から一変して主婦で子供や孫のいるおばさん、おばあさんばかりになりました。 私自身もすっかりおばさんになっています。スーツとパンプスを脱ぎ捨てカジュアルな服装とウォーキングシューズに身を包み、明るく元気なストレスのない健全なおばさん生活です。高級なレストランはもう不要。ファミレスでくったくのないお喋りをして過ごすのが至福のときです。
元キャリアウーマンの同志との付き合いもまた以前とは異なる味わい深さもあり、20代〜30代に親しかった昔の友人たちとの数十年ぶりの再会も次々に復活しています。
◇絵手紙を楽しむ
毎月2回、12人ほどで区の施設に集まって絵手紙をかいています。(絵手紙は、文字と絵の組み合わせなので「描く」と「書く」の2つの組み合わせ作業です)。
題材は花、野菜、道具など各自が好きなものを持ち寄ることもありますし、「台所用品」とか「お節句にちなんだもの」とかテーマを決めて、それに関連するモノを持ち寄ることもあります。必ず実物を見て描くことが原則です。そして、その時に浮かんだ言葉を添えます。絵も文章もどちらも主役です。
絵手紙は「心でかく」ので、上手下手の概念はありませんし、失敗というのも存在しません。「心が王様、手が家来」と学びました。
最初は素人だけで集まってかいていましたが、日本絵手紙協会から先生を派遣していただき、指導していただいています。この絵手紙のきまりごとには、「絵手紙道」と呼びたいくらい姿勢を正し、心を正して臨む要素があります。流石は日本のお稽古事と感服しました。
絵手紙を嗜む人の数は増加の一途を辿っているようですが、会ったことのない方とも交流が出来るし、出すのも戴くの嬉しいものです。絵日記として毎日自宅で楽しんでいる人もいます。貯まった作品はいつか外に出られなくなった時に眺めたらどんなに慰めになるでしょうか。これこそが老後への蓄えというものでしょう。
◇音楽を楽しむ
地元の友人の指導でイタリア歌曲を歌っています。おばさんになったお陰で恥ずかしさなどは微塵もなく、大声をはりあげています。また、クラシック一辺倒だった私が初めて日本の童謡も経験してみて,可愛い歌の魅力も知りました。
著名なオペラ歌手やオペラの演出家と親しくなり、しばらく離れていたオペラに通うようになりました。若い頃沢山鑑賞しているのでもう行かない積もりでいたのですが、久しぶりに大劇場で一流の演奏に接してみるとやはり素晴らしく、芸術のもつ威力を思い知らされます。華やかにお洒落をした老女や中高年の女性の満ち足りた表情をロビーで見るのも好きなのです。
◇ボランティア活動を楽しむ
発展途上国の子供の里親運動、アジアからの在日留学生支援、地元の老人ホームでの入居者との語らい、洗濯物の整理など欲張っています。退職したおじさんたちも楽しげに参加しています。先般はアフリカに井戸を作ろうという趣旨の運動に賛同してコンサートを開催しました(収益の一部を募金)。在日留学生のために日本を楽しむイベントを開くこともあります。在職中の時のように多額の募金はできなくなりましたので、ボランティア活動は時間と手間をかける方向で取り組んでいます。
退職した友人たちも、在日外国人に日本語を教えたり、区や市に関連したイベント開催に携わったり、大規模マンションの住人の交流する組織を立上げるなど様々な形でボランティア活動を楽しんでいます。
◇サプリメントで健康管理
私は健康管理は自己責任だと考えています。そして、薬に頼るのではなく、できるだけ毎日摂取する食品から栄養を補給するように心がけています。それでも不足したり、体調が崩れたような時は、早めにサプリメントを利用しています。
一例ですが、風邪のひき始めに「エキナシア」が欠かせませんでした。在職中は、風邪になりそうだという症状が出た時には直ぐに「エキナシア」を摂取するようにしていたので、仕事を休むことを回避することが出来ました。私にとって仕事に穴をあけることは恐怖で、絶対にあってはならないことだったので、「エキナシア」の常備は大きな安心となりました。
<インタビュー後記>
折り目正しいマリエ様は、私たちの質問に一つ一つ丁寧に応えて下さいました。長時間のインタビューにも拘わらず、私たちにお気遣いをいただき、本当に頭が下がる思いです。また、インタビューの後もメールで内容を補足いただくなどのご協力をいただきました。
今回のインタビューに応じていただきましたマリエ様に感謝申し上げますとともに、今後のご健勝を祈念申し上げます。