この特集企画のトップバッターとしてご登場いただいたのは、キヤノンOA機器の直販セールス部隊及びサービス部隊の指揮官(キヤノン販売株式会社 営研事業部 副本部長)として長年活躍され、定年退職後は地域社会で自己実現に取り組まれている千葉県在住の若勇康仁様です。
若勇様が最近出版された著書「さあ。歩きましょう」がご縁で実現したインタビューでしたが、長い間お会いしていないので、少し不安でした。待ち合わせ駅のコンコースでお会いし、以前と変わらぬにこやかな表情と独特のユーモア溢れる語りを耳にして、一気に十数年前の複写機セールス時代にワープしてしまいました。「これならうまくいきそうだ!」という幸先のいい出会いからこのインタビューの幕が上がりました。
インタビューは、まずは団塊世代という表現から始まりました。以下は若勇様のお話を要約筆記したものです。(文責:CGBS高橋)
◇団塊世代について
よく団塊世代と言われていますが、団塊世代とは、評論家・作家の堺屋太一氏が一躍有名になった著書「団塊の世代」の表題に因んだものです。「団塊」は堺屋氏の造語で、団塊世代というのは、昭和22年から24年の三年間に出現した680万人ものベビーブームの世代です。昭和26年まで含めると1,000万人以上になります。就学時に青空教室、ハイティーン、長じて受験戦争、ニューファミリー、そしてビートルズを聞き、多くのフォークソング・シンガーを生み出した世代です。
戦争を知らない戦後っ子で、学生時代は70年安保に重なり、全共闘世代とも呼ばれますが、この世代の人たちが全部同じかというとそうではありません。それを十把一絡げに総称するのはおかしいと思います。共通の生活体験をしてきたというだけで、安保世代だから全員が政治的だったとか、学生運動をしたわけではありません。団塊世代の風俗の色に染まり方もいろいろで、個人差が大きいと思います。80%はノンポリで政治闘争とは縁がなく、ほとんどが流行歌、フォークソングに自己存在を確認するムード派だったと思います。
就職後は猛烈な働き蜂として日本の高度経済成長を支えてきましたが、突如バブルが崩壊し、リストラ騒ぎの渦中に身をさらし、2007年から数年間にわたってどっと定年を迎えます。定年延長や再就職もあるでしょうが、いずれは地域社会に参入してくるはずです。
◇団塊党について
菅直人氏が立ち上げた団塊党は、一つの方法論に過ぎません。だから、学生運動をした団塊世代が、会社人間を卒業後、市会議員など政治的な活動に向いているなどとテレビなどで論じている人たちは、論のため論じているに過ぎないと思います。議会への「政治参入」より、まず1、2年間身近な「地域社会参加」をすすめたいです。学生運動や文化活動の経験をもつ団塊世代に、地道な地域活動、自治会活動をしてもらいたいと考えています。地域活動の主力部隊として活動し、その延長線上で市会議員を目指してもいいと思います。50、60代の社会経験、人生経験の豊富、熟達な団塊世代の人々が、政党の政治活動の裾野を広げる新しい力として出現することが望ましいと思います。
テレビなどまるで民族大移動のように田舎へとUターン、Jターンをすすめる人がいますが、夫婦が世帯を別にしてまで、男は「里山」をめざすことはないですよ。「熟年」なのだから田舎生活(カントリーライフ)など、よく考えた方がよいと思います。
◇サラリーマン時代のお酒について
サラリーマンとして働いていた当時、飲むお酒は、1次会、2次会までは仕事の延長戦でしたね。本当に楽しめるのは、2次会が終わって、自分一人、馴染みのお店でカウンター越しに店のご主人やおかみさんと話しながら飲むお酒です。
◇定年後の準備について
定年後のことがいろいろ言われていますが、現役で仕事をする人には定年後の準備を考える余裕がないのが現状でしょう。定年前にいろいろ準備しましょうと言いながらも、本当はできるわけがないと思います。例えば、自分の家のゴミを選別して捨てることさえできないなど、我が家の日常的な暮らし方のルールすら分からない会社人間が多いですから。まずは自分の現実を見るのが大事でしょう。
◇起業のタイミングについて
自分は起業のタイムリミットは45才だと思います。ところが45才でベンチャー企業を起こして家で仕事をする人には、何か病気があるのではないかとか、問題があるかのように周りからの視線が集まります。この視線は、かなりきついものです。それに比べて定年退職者は、退職された人として理解してもらえる面があるのはありがたいです。
◇定年後に地域社会に受け入れてもらえる心構えについて
定年退職してすぐにエッセイ教室に入会し、現在まで続いています。この教室は、特にこの数年間、会員は中高年の女性たちばかりでした。女性たちばかりのところで一緒に勉強しながら、勤めていた会社のことを一切出さずに話を交わしました。すると本当の話ができるようになりました。退職者の70〜80パーセントが、自分が勤めていた会社やそこでの職位にこだわりすぎます。それらを捨て、自分らしく生きることから、本当の話が交わせるようになると思います。
過去の会社のことは忘れましたというのが地域社会に受け入れてもらえた要因かもしれません。実際、蕎麦の種をまくときは、力と飲み物があれば十分で、どんな会社にいたかとか、役職がどうだったかは何の役にも立ちません。気力と体力があれば、山登りもできるものでしょう。退職後は、会社とか役職とかは関係ありません。むしろ役職が高いほど、閉じこもりやすい傾向があるようです。
目線が高い人ではなく、低い人ほど、気持ちよく付き合いができます。結局、地域社会に受け入れてもらえる態度能力は、自分より一つ下の目線を持つこと。要するに威張らないことが大事でしょう。
◇定年後の地域社会への土着化の第一歩 「公園デビューを通した仲間作り」について
定年で会社、仕事から解放されて自分の住みかの地元に戻ってみると、知っているはずのご近所のことや地域社会のことなどがまるで知らないことに気づきました。そこで自分は、飼い犬に曳かれて公園デビューをしました。二匹の犬を朝晩30分運動させることで、犬を連れたご近所の老若男女と、お互いに犬の名前を冠して呼び合う仲となり、公園デビューができました。このようなご近所との触れ合いの第一歩は、私のように犬をつれてでもいいし、お孫さんがいる方なら孫を連れてでもいいでしょう。躊躇しているといつの間にか留守番人間となってしまいます。老人の「とじこもり」を避けるため、地域での人間関係作りに取り組む日課を始めましょう。
◇定年後の地域社会での過ごし方について
定年後は、自分で自由に使える時間が多くなりますので、それをどうするかが問題でしょう。自分は、公園デビューに加えて、フィットネス・クラブに通っています。そこでは地域社会の定年おじいさん、元気一杯のおばさんなど様々なタイプの人々と知り合うことができます。まだあります。30坪の畑作をしています。いい作物を作るためには、ほぼ毎日農作業をこなす必要がありますので、顔を合わせるメンバーも増えて人間関係が広まります。
このようなことで地域社会への土着ができるかどうかは即断できませんが、公園デビューを通して仲間を作ったり、畑仕事で人間関係を深めるのは良いことでしょう。
◇定年後の生き方・過ごし方について
自分は定年後の過ごし方について、「好きなように自分らしく過ごせばいい。」と考えます。この発想が著書「さあ。歩きましょう」の源流にあります。
地域社会での人間関係を深めるため、自分が中心になってNPOを設立していますし、いろんなNPOにも参加し、活動しています。NPOネイチャースクール、NPO「炭焼きの会」、「やちよ蕎麦の会」、「横戸台農園クラブ」と、アウトドア生活が結構多いですね。
自分の毎日のスケジュールも大体決まっていますが、そのうち執筆活動が70%を占めています。エッセイは、自分が「体験したこと」、「経験したこと」、「感じたこと」を書いています。後2冊位は出版したいですね。
◇最近出版した著書「さあ。歩きましょう」について
「家庭への軟着陸と地域社会への土着化をどうする?」をテーマに、定年後の暮らしをエッセイに書き綴りました。今回の本を出版するために、自分は100の作品を作りました。その中から「地域社会への軟着陸」「家族の風景」の章立てのエッセイ30数編を絞り、「さあ。歩きましょう」の書名で出版になりました。なお、本書には「小説 息子の腰痛」も掲載しています。
<インタビュー後記>
ゆったりした雰囲気で話されたいとのお考えでしょうか、若勇様は昼食をはさみながらインタビューに応じて下さいました。互いにランチビールで乾杯後、若勇様は「これは良いお酒ですよ」と好物の薩摩焼酎「天使の誘惑」を召し上がりながら、時に笑顔で、また時には少し激しく、感情豊かにお話になりました。その様子は、直販セールス時代にオーバーラップしていたといっても過言ではないほどです。インタビューでお聞きした「退職後は、会社とか役職とかは関係ありません。威張らないことが大事でしょう。」というお話がとても印象的でした。
2時間以上にわたり熱心にインタビューに応じていただいた若勇様に感謝申し上げるとともに、今後のご活躍とご健勝を祈念申し上げます。